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桜天蓋
妙義山倫氏著(文化評論)1238円+税

 何とも不思議な物語である。読めば読むほどに多様な登場人物の心情が身に沁みて伝わってくる、そんな一冊だ。

 最初の舞台は現代。絵の道を志し都会に出てきた主人公、西洞惟也は都会での暮らしに空虚感を覚え、筆を捨て故郷である山陰の地に戻る。生家での田舎暮らしは悪いものではなかったが、ある日惟也は一人の旅の僧侶と出会う。この出会いをきっかけに、舞台は平安時代へと移る。いわばタイムスリップしてしまったのだ。

 惟也を平安時代へと呼び寄せたのは登紀子姫という姫君の想いだった。彼女を中心とした悲しくも美しい物語を経て現代へと戻った惟也は、芸術に対するひとつの「答え」を掴むことになる――。

 決して一本気なストーリーではなく、また平安時代という舞台上、当時の文化や風習、社会の仕組みを飲み込むのにやや骨が折れる。それでも丁寧な著述によって、平安人それぞれの思いや風景が鮮やかに浮かんでくる。現代の人々が忘れた日本人の心。そういったものがにじみ出てくるようだ。

 そして、著者自身も画家であることを片隅で思いながら読むと、なお味わい深い。
author:自費出版図書館, category:書評, 15:13
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