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大人のための絵本 ,靴辰殀瓦の街
小野いずみ文・中山佑子イラスト(さち臨床心理研究所)2190円+税

 大人が子どもと一緒に読む絵本、というものはあるが、大人自身のための絵本というものは珍しい。内容も示唆に富んでおり、酸いも甘いも味わってきた大人だからこそ、心に響くものがあるのだろう。

 舞台は空や海、山や道がすべて灰色の港町。ここには先祖代々定住している人はおらず、心に「忘れたいもの」を抱えた人がよその街から移り住んでくるのだという。
 そして、この港町には一見奇妙な「風習」がある。家ができると必ず犬がやってきて、新しい住民が飼うようになるのだが、その犬が死ぬ間際、必ずしっぽを抜かれるという儀式がある。余命いくばくもない犬たちではあるが、しっぽを抜くことはすなわち、人為的な殺害を意味している。

 この一見、残酷にも思える設定が、その住民たちにどのような心理的な変化を与えるか。それが本書の見所だ。結末は意外なものであろう。

 臨床心理士でもある物語の作者は多分にストレスを抱えた現代人を意識して、この絵本を作り上げたはずだ。ストレスからの脱出に向けたヒントが象徴的に伝わってくるだろう。
author:自費出版図書館, category:書評, 14:57
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